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『女のいない男』#2 髙橋奏一

 僕が愛してやまない村上春樹氏の作品、ドライブマイカーがアカデミー賞授賞となりました。昔から彼の著書を愛読している自分は、なぜか誇らしい気持ちで新生活、そして社会人を迎えます。また、海堂尊作品のジェネラル•ルージュに出てくる速水部長が大好きだった自分にとって、西島秀俊が出演している作品が受賞したことも非常に嬉しいです。

 ドライブマイカーは“女のいない男たち”に掲載されている短編ですが、決して大きく起伏のある展開やストーリーが待ち構えている訳でも、燃えるような恋愛が描かれている訳でもありません。愛する妻を失った主人公が運転手を雇い、妻を知る男と話をするという、特に混み入った設定のない、”女のいない男”の話です。しかし、登場人物が魅力的で、(特に男なら)どこか心揺さぶられる内容です。静けさと厳かさ、登場人物の心模様が印象的でした。自分にとって少し大人な内容になってて面白かったです。映画もそのうち見たいと思ってます。

 

 前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ僕のことを思い出して頂けたでしょうか。皆さんの心配を他所に、国家試験も就職活動も余裕で無事乗り越えてしまいました。

 健康福祉学部理学療法学科を卒業しました、髙橋です。

 読んでくださる方に少しでも何かが届く文章を、と思っているのですが、貴重なお時間を頂いてまで読む価値があるものか判断しかねますので、興味なかったらこの辺で読み終えて頂いても結構です。

 

 感謝を伝えるだけのブログにならないよう、自分にとってのサッカー、部活とそれに対する心境を表現できればと思います。登場人物の心模様を描くことは作家でも非常に困難な仕事ですが、自分の心境ぐらいはなんとか表現できる大人になりたいものです。

 

 まず、サッカーが好きだからというそれだけの理由で、どんなに授業が忙しくても、距離が遠くても、可能であればグラウンドに通ってサッカーができたことが本当に幸せでした。同期より1年早く引退を決めた時には、皆さんから沢山の別れを惜しむ言葉を貰えて、今でも嬉しく思う時があります。

 

 とはいえ、これまでの自身のサッカー遍歴によって、自分の性格は、出ていない試合の勝利をベンチやスタンドから喜べるほど、出ていない負けた試合を真剣に悔しいと感じられるほど器用なものではなくなっていました。ピッチに立って、ボールを触って、相手と駆け引きをして初めてサッカーの楽しさを実感するのであって、その何にも代え難い喜びを味わえなくなった辛さはとても大きいものでした。週末だけ通って試合に出ることが現実的に受け入れられていない以上、平日に活動できない自分が3年生以降も続ける選択肢はなかったように思えます。やるなら100%ピッチで表現するためにやる、それが無理そうなら辞めるという選択を良いタイミングでできたことで、後悔なく部活動を終えることができました。荒川キャンパスなので2年生以降は厳しいとわかっていながらも入部し、自分の居場所を探すだけで終わった3年間でしたが、部員のみんなとサッカーをしている時間はグラウンドに辿り着くまでの苦労や労力を忘れさせてくれるもので、これ以上ない喜びを味わえるものでした。なんとか3年間続けられたのも、同期や先輩後輩が行きやすい雰囲気を作ってくれたから、そしてなにより、自分がサッカーをすることがこの上なく好きだったからだと思います。体育会だからどう、というのは正直あまり感じたことがなかったですが、部員みんなのサッカーに対する真剣さや素直さは内心尊敬していましたし、体育会の大きな特徴だと、今となって感じています。

 

 引退してからは、これまで長年情熱を注いできた対象から急に離れ、”女のいない男”と似たような状況を感じました。男性にとってのかけがえのない大切なものとして、女性を例えがちな気がします(逆はそうでもない気がします)。無条件に、非論理的に絶対的な存在。自分にとってのサッカーは本当にそれに近いものでした。そして、無条件の楽しさや情熱から離れ、しばらくは刺激がなく、感情の起伏や質がこれまでとは大幅に違った日々だったように思えます。勝負や駆け引きのない世界を少し退屈に感じることもありました。それだけサッカーに情熱を注いでいたし、無二の存在だったのだと改めて実感できました。

 また、引退してからは高校の後輩が選手権に出場したり、同期や後輩からプロが出たりと、母校に多大な尊敬と誇らしさ、そしてほんの少しの羨ましさを感じた時期でもあります。母校への感謝とはありきたりな表現ですが、ルーツを見返す機会としてとても貴重だったように思えます。

 

 先輩からのアドバイスではないですが、荒キャンで体育会に入った、入ろうと思っている後輩は、ちょびっとの覚悟と、明るめの性格と、それなりの競技能力を持って入部することをお勧めします。南大沢の方々は、荒キャンから通ってる部員がいれば優しくしてあげてください。

 荒川にいた間は、部活のことを考える時間なんてほとんどないというのが正直なところで、卒業するにあたってもこの原稿の依頼が来るまで部活動の存在は全く意識にありませんでした。引退してからの1年、そして今に至るまで、体育会サッカー部がどんな状況に置かれているのか皆目検討もつきませんが、今後もサッカーの楽しさを忘れず、純粋にボールが蹴れることに喜びを感じられるような活動ができれば良いのではないかと思います。

 

 最後だからと言って特別大きな感謝の気持ちを持つタイプではないのでが、関わってくれた同期、先輩後輩には本当にお世話になったと思っています。

 

ありがとうございました。

 

健康福祉学部理学療法学科

髙橋

 

僕の最も好きな長編小説は”海辺のカフカ”ですので、是非。